
この記事の要点
- 01IPAの調査では、DXを推進する人材の量が不足していると答えた日本企業が85.1%。依頼先の人数を測った数字ではない
- 02JUASの調査では、品質が予定どおりにならなかった要因として「ベンダーのスキル不足」が59.9%で最も多く挙がっている
- 03発注側が動かせるのは、頼む仕事の量。対象範囲、追加開発、社内で持つ役割の3つで減らせる
目次4項目
SAPの導入や移行を計画して依頼先に声をかけると、「その時期は体制を組めません」という答えが返ってくることがあります。提案は来たものの、体制図に並ぶ人の経験が浅い、という場合もあります。SAPコンサルが足りない、と言われる場面です。
こうなると、発注側は人を探すことに力を注ぎがちです。けれども、世の中にいるSAPコンサルタントの数は、発注側には増やせません。動かせるのは、頼む仕事の量です。 対象範囲、追加開発、社内で持つ役割。この3つを見直すと、同じプロジェクトでも、外に頼む仕事は減らせると筆者は考えています。
SAPコンサルの不足について、調査に出ているのは、自社のDX人材の不足とベンダーのスキル不足
この記事では、SAPのコンサルタントに限った不足の人数は扱いません。扱うのは、調査に出ている数字です。
情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」によると、DXを推進する人材の「量」の確保について、「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた日本企業は85.1%でした。同じ調査をもとにしたIPAのディスカッション・ペーパーによれば、米国は23.8%、ドイツは44.6%です。DXに取り組んでいると答えた企業が、自社について答えた割合です。自社の中で足りないと答えた企業が多い、という結果です。依頼先の人数を測った数字ではありません。
85.1%は、自社のDX人材が足りないと答えた企業の割合。依頼先の人数ではない

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2026」は、システム開発の現場への影響を尋ねています。
| 調査の項目 | 回答の割合 |
|---|---|
| 品質が予定どおりにならなかった要因:ベンダーのスキル不足 | 59.9%(挙がった要因の中で最多) |
| 品質が予定どおりにならなかった要因:社員のスキル不足 | 44.8% |
| 品質が予定どおりにならなかった要因:開発体制のリソース不足 | 28.5% |
| 工期の悪化に影響している環境変化:IT人材の新規確保の困難化 | 44.3% |
| 予算の悪化に影響している環境変化:IT人材の新規確保の困難化 | 36.8% |
表 人材に関わる調査の結果(2025年度。出典2の速報版による。いずれも複数回答)。本文の85.1%(IPA)は、DXに取り組んでいると答えた企業が母数。表の品質の要因は、品質が予定どおりにならなかったと答えた企業(n=172)が母数。環境変化は、予算がn=272、工期がn=174。SAPに限った調査ではない。
筆者がこの表から読み取るのは2点です。ひとつは、足りないのが人数だけではないことです。「開発体制のリソース不足」の28.5%より、「ベンダーのスキル不足」の59.9%のほうが多く挙がっています。もうひとつは、発注側の社員のスキル不足も44.8%あることです。不足は、頼む側と請ける側の両方で起きています。
ポイント
調査に出ているのは、DXを推進する人材が不足していると答えた企業が85.1%あることと、品質の要因として「ベンダーのスキル不足」が59.9%で最も多く挙がっていることです。どちらも、SAPコンサルの人数を直接測った数字ではありません。
人を探す前に、外に頼む仕事を減らす
人が足りないとき、発注側が選べる道は2つです。足りない人を探し続けるか、頼む仕事を減らすか。筆者は、後者を先に検討することを勧めます。頼む仕事の量は、発注側が決めた前提で決まるからです。
外に頼む仕事の量は、発注側が決める3つの前提で動く

世の中にいるSAPコンサルタントの数は増やせなくても、自社が頼む仕事の量は、発注側が決める前提で動く。
対象範囲を段階に分けると、同じ時期に要る人が減る
SAP導入は、会計、販売、購買、生産、在庫といった領域ごとに、その領域を知るコンサルタントが要ります。全部の会社と全部の領域を一度に入れると、同じ時期に、全部の領域の人が必要になります。最初の範囲を絞れば、同じ時期に必要な人は減ります。範囲の決め方は、SAP導入の進め方の記事で扱っています。
段階に分けると、全体の期間は延びやすいと筆者は見ています。期限のある移行では、分けられる範囲に限りがあります。どこまで分けるかは、経営が決めることです。
最初の範囲を絞ると、同じ時期に要るコンサルタントが減る。全体の期間は延びやすい

標準に合わせて追加開発を減らすと、開発とテストの人が減る
追加開発(アドオン)は、つくる人、テストする人、稼働後に保守する人を必要とします。旭化成は、SAP S/4HANAの導入で、約20年の運用で2,400本あったアドオンを1,100本まで減らしました。SAPジャパンの紹介記事によると、追加のアドオンは毎週の場で議題に上げ、会計、IT、経営企画室の部長が参加する毎月の審議会で判定しています。同社のPMOの一員は、開発の量を抑えなければ当初の予算と納期を守れないことは明らかだった、と振り返っています。
要否を判定する場を置くことは、人を増やさずにできる打ち手です。
旭化成は、追加のアドオンを2段の場で判定し、2,400本を1,100本まで減らした

社内で持つ役割を増やすと、肩代わりの作業が減る
業務を知っている社員が、要件の整理、テスト、マスタの整備に時間を割けないと、その分を外部のコンサルタントが肩代わりすることになると筆者は見ています。SAPジャパンの年次イベントでは、登壇した導入会社のコンサルタントが、現場の部門にはプロジェクトに参加する余力がないことがあり、任されたデータの整備が期日までに終わらないことがしばしばある、と述べています。
社内の時間を先に確保できれば、外に頼む仕事は減ります。IPAの「超上流から攻めるIT化の原理原則17ヶ条」も、発注者の行動規範として、受注者との役割分担を明確にし、プロジェクトに積極的に参画することを挙げています。
注意
人が足りないからといって、テストとデータ移行の担当を削らないでください。削った分は、切替のあとの混乱として戻ってきやすいと筆者は見ています。減らすのは、範囲と追加開発のほうです。
それでも足りないときは、役割で分けて、人で確かめる
頼む仕事を減らしても、外の力は要ります。確保の仕方で、筆者が勧める点は3つです。
- 1社に全部を頼めないときは、役割で分けて頼む。構想と選定の事務局、領域ごとの設計と設定、プロジェクトの管理は、別々の会社に頼める
- 提案の体制図は、役割ごとに、担当する人の名前と所属の会社で確かめる。人が足りない時期ほど、提案の場に出てきた人と、作業する人が別になりやすいと筆者は見ている
- 時期を動かせるなら、動かす。期限に向けて依頼が集まる時期を避けられるかを、早めに検討する
順番は、減らす、分ける、確かめる、時期を合わせる

不足への備えは、人探しの前に、頼む仕事の量を決め直すところから始める。
役割で分けるときの依頼先の型と、面談で聞く問いは、SAPコンサル会社の選び方の記事にまとめました。複数の会社に分けて頼むと、全体を見る役が要ります。発注側の管理の置き方は、SAP導入のPMOの記事で扱っています。
役割で分けて頼むと、全体を見る役が要る。体制図は役割ごとに確かめる

追加開発を減らすと、費用にも効きます。見積もりの前にそろえる項目は、SAP導入の費用の記事をご覧ください。
役割で分けて頼むという勧めは、領域を絞って支援する会社には都合のよい話でもあります。筆者の会社はその型にあたります。その立場から書いている点は、割り引いて読んでください。
Never Redは、SAPの会計領域について、設計から設定までを当社のメンバーが担います。構想の段階で、対象範囲と追加開発の前提を見直すところからもご相談いただけます。支援の範囲はSAP導入支援をご覧ください。
ポイント
順番は、減らす、分ける、確かめる、時期を合わせるです。世の中にいるSAPコンサルタントの数は増やせなくても、自社が頼む仕事の量は発注側が決められます。
まとめ
- IPAの調査では、DXを推進する人材の量が不足していると答えた日本企業が85.1%。各社が自社について答えた割合で、依頼先の人数を測った数字ではない
- JUASの調査では、品質の要因として「ベンダーのスキル不足」(59.9%)が「開発体制のリソース不足」(28.5%)より多く挙がっている
- 発注側が動かせるのは、頼む仕事の量。対象範囲、追加開発、社内で持つ役割で減らす
- それでも足りないときは、役割で分けて頼み、担当する人を役割ごとに確かめる
- テストとデータ移行の担当は、人が足りなくても削らない
よくある質問
- SAPコンサルは、本当に不足しているのですか。
- IPAの調査では、DXを推進する人材の量が不足していると答えた日本企業が85.1%あります。JUASの調査では、品質が予定どおりにならなかった要因の1位が「ベンダーのスキル不足」でした。どちらも、SAPコンサルの不足を直接示す数字ではありません。請ける側でも頼む側でも人が足りていないことをうかがわせる結果です。
- 依頼先から「体制を組めない」と言われたら、どうすればよいですか。
- 別の依頼先を探す前に、頼む仕事の量を見直してください。最初の対象範囲を絞る、追加開発の前提を減らす、社内で担う役割を増やす。この3つで、必要な人数と時期が変わります。そのうえで、役割で分けて頼めないかを検討します。
- 社内でSAPが分かる人を育てたほうがよいですか。
- 筆者は、育てる範囲を分けて考えることを勧めます。業務ごとの担当者が、標準の業務プロセスを理解し、テストと稼働後の小さな変更を担えるようになると、外に頼む仕事は減ります。SAPの設定そのものを社内で持つかどうかは、稼働後の変更の頻度と、担当者を置き続けられるかで判断します。
- 人が足りない時期を避けて、導入を遅らせてもよいですか。
- 保守の期限がある場合は、遅らせられる幅に限りがあります。いまのシステムの保守の期限を確かめたうえで、開始の時期と対象範囲を一緒に検討してください。
SAP導入の体制づくりや、対象範囲と前提の見直しについてのご相談は、お問い合わせからお寄せください。
出典
- DXを推進する人材の「量」の確保について「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた日本企業の割合(85.1%):独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2025」(2025年6月)3.2 人材の過不足状況。米国(23.8%)とドイツ(44.6%)の割合:IPA 調査分析ディスカッション・ペーパー「AI時代のデジタル人材育成」(執筆者の見解で、IPAの公式見解ではない)
- 品質が予定どおりにならなかった要因(2025年度)と、システム開発のQCD悪化に影響を与えているトレンド(IT人材の新規確保の困難化):一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査2026(2025年度調査)」速報版(2026年4月)
- 旭化成のアドオン削減(2,400本から1,100本)、判定の場(毎週の場と毎月のアドオン審議会)、PMOの一員の発言:SAPジャパン「旭化成が SAP S/4HANA のビッグバン導入で目指す新たな成長基盤の再構築」(2023年11月22日)
- 現場部門にプロジェクトへ参加する余力がないことがあり、任されたデータの整備が期日までに終わらないことがしばしばあるという指摘:SAPジャパン「エキスパートコンサルが明かす SAP ERP 導入の失敗と成功の法則」(SAP NOWレポート、2024年10月7日)
- 原理原則[1]の発注者の行動規範「受注者との役割分担を明確にし、プロジェクトに積極的に参画する」:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「超上流から攻めるIT化の原理原則17ヶ条」
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