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SAP導入のPMO ─ 発注側のPMOは、判断待ちを見える形にする役割

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SAP導入のPMO ─ 発注側のPMOは、判断待ちを見える形にする役割

この記事の要点

  1. 01発注側のPMOの仕事は、進み具合の集計より、止まっている判断を見える形にして、決める人に期限つきで渡すこと
  2. 02管理する項目は、政府の指針が挙げる9つの事項(工程、課題、リスク、変更、品質など)を土台に、SAP導入に読み替えられる
  3. 03PMO支援を外に頼むときは、導入を請ける会社と分けるかどうかを先に決める
目次7項目
  1. 01SAP導入のPMOは、進み具合の集計より、判断待ちを見える形にする役割
  2. 02発注側のPMOと、導入ベンダー側のPMOは、守るものが違う
  3. 03発注側のPMOが管理する項目は、政府の指針の9つを土台にする
  4. 04課題の一覧は「誰が決めれば終わるか」で仕分ける
  5. 05SAPのPMO支援を外に頼むときは、作る会社と分けるかを先に決める
  6. 06PMOを置いても進まないときは、決める場と決める人を確かめる
  7. 07よくある質問

SAP導入のプロジェクトにPMOを置いた。週次の進捗報告は整い、課題の一覧も毎週更新されている。それでも日程は少しずつ後ろへずれていく。

筆者は、こうしたずれの原因は、作業の遅れより判断の待ちにあることが多いと見ています。課題の一覧に並ぶ行のうち、誰かが決めれば終わるものが、決める人の名前も期限もないまま残っている、という形です。発注側のPMOの仕事は、止まっている判断を見える形にして、決める人に期限つきで渡すことです。 進み具合の集計は、そのための手段です。

SAP導入のPMOは、進み具合の集計より、判断待ちを見える形にする役割

PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)は、プロジェクトの計画、進み具合、課題、リスクを管理し、責任者の判断を支える役割です。SAP導入は、会計、販売、購買、生産、在庫といった業務をまたいで進みます。領域ごとのチームが並行して動くので、全体を見る役が要ります。

SAPジャパンの年次イベントでは、登壇した導入会社のコンサルタントが、体制の準備不足を失敗の要因に挙げました。現場の部門は日々の業務を抱えていて、任されたデータの整備などの作業が、期日までに終わらないことがある。ほかの部門から応援を出すには経営の判断が要り、その時間が遅れにつながる、という指摘です。処方箋として示されたのは、ステアリングコミッティで課題を経営陣と共有し、その判断を受けてPMOが要員を調整する進め方でした。

PMOは判断が要る論点を拾い、経営の判断を受けて体制を動かす

左に、現場の部門が日々の業務を抱え、任されたデータの整備が期日に終わらず、応援を出す経営の判断を待つ時間が遅れにつながる流れ。右に、PMOが判断の要る論点を拾い上げ、ステアリングコミッティで経営陣と共有し、経営陣が判断し、PMOが要員を調整する、繰り返しの進め方。
図1 体制の準備不足で起きることと、SAPジャパンの年次イベントで示された進め方。指摘と進め方は出典2、論点を拾い上げる段は筆者の考え。

筆者はこの発言を、PMOは報告書をつくる係ではなく、経営の判断を受けて体制を動かす役だ、と読みます。判断が要る論点を拾い上げるところまでをPMOの仕事に含めるのは、筆者の考えです。

発注側のPMOと、導入ベンダー側のPMOは、守るものが違う

SAP導入では、PMOが2つ置かれることがあります。導入を請ける会社の中のPMOと、発注側のPMOです。同じ名前でも、役割は別です。

2つのPMOは、管理する相手と、守るものが違う

導入ベンダー側のPMOは、自社の要員と協力会社を管理し、契約で約束した作業と成果物、納期、自社の工数を守り、判断が要る論点と発注側の作業の遅れを発注側に知らせる。発注側のPMOは、社内の部門と導入を請ける会社を管理し、導入の目的、対象範囲、予算、切替の日を守り、判断が要る論点を期限と選択肢をそろえて経営の責任者に上げる。課題とリスクの一覧は両方で共有し、誰の判断で終わるかの欄は発注側のPMOが埋める。

導入ベンダー側のPMOがいても、社内の判断を集めて期限を切る役は別に要る。それが発注側のPMOになる。

図2 導入ベンダー側のPMOと、発注側のPMO。分け方は筆者の整理。

発注側に管理の役が要る理由は、公的な指針にも書かれています。政府の情報システムのルールである「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」は、発注者には主体性を持って事業者を管理する責任があるとしています。民間に適用されるルールではありませんが、発注側が管理を手放さないという考え方は、SAP導入にも当てはまると筆者は考えています。

ポイント

導入を請ける会社のPMOは、その会社の約束を守るために動きます。社内の判断を集めて期限を切る役は、発注側に置きます。

発注側のPMOが管理する項目は、政府の指針の9つを土台にする

何を管理すればよいのか。同じガイドラインは、プロジェクトの管理の方法を定める文書に書く事項として、少なくとも9つを挙げています。ガイドラインでは、プロジェクトを進める組織自身が定める事項です。筆者はこれを、発注側のPMOが受け持つ項目として読み替えます。SAP導入に当てはめると、次のようになります。

管理の項目 ガイドラインが書くよう求める内容 SAP導入での読み替え(筆者の整理)
ステークホルダー管理 主要な関係者と、プロジェクトへの関わり方 業務ごとの責任者、経営の責任者、導入を請ける会社の責任者を名前で書く
コミュニケーション管理 会議体の種類と頻度、合意の手順、議事録の管理 ステアリングコミッティと週次の会議で、何を決めるかを分ける
工程管理 作業の管理方法、進み具合の報告先と頻度 作業の予定に加えて、発注側の判断の締め切りを載せる
指標管理 目標の達成状況をつかむ指標と、取り方 導入の目的を測る数字を、稼働のあとまで追う
リスク管理 リスクが表に出たときの報告先と管理の手法 本番の処理量、周辺システムとの連携、切替の時期を早めに挙げる
課題管理 課題が出たときの報告先と管理の手法 課題ごとに、決める人と期限を書く
変更管理 変更の管理対象、手順、手法 仕様を固めたあとの変更を、誰が受け付け、誰が可否を決めるか
品質管理 各工程の作業の品質を管理し、改善する手法 テストの合格基準と、工程を終えてよいかの判定
記録管理 文書とデータの保存期間と、その後の扱い 決めたことを、決めた人と日付つきで残す

表1 プロジェクトの管理で定める9つの事項(出典1の第3編第2章「プロジェクト管理要領の記載内容」をもとに作成)。右の列は筆者の整理。

9つのうち、筆者が発注側のPMOの中心に置くのは、課題管理と変更管理です。どちらも、決める人がいないと止まる項目だからです。IPA(情報処理推進機構)と経済産業省が整備した「情報システム・モデル取引・契約書」も、未決事項を確定する手続きと時期を明確にすること、変更管理の手続きを詳しく定めることを、論点に挙げています。受託開発を想定した契約書ですが、決める手続きを先に定めるという考え方は、SAP導入にも通じると筆者は考えています。

9つの項目のうち、発注側のPMOの中心に置くのは課題管理と変更管理

ステークホルダー管理、コミュニケーション管理、工程管理、指標管理、リスク管理、品質管理、記録管理、課題管理、変更管理の9つを、SAP導入での読み替えとともに並べた図。課題管理と変更管理を強調し、どちらも決める人がいないと止まると示す。
図3 プロジェクトの管理で定める9つの事項と、発注側のPMOの中心に置く2つ。事項は出典1、SAP導入での読み替えと中心の選び方は筆者の整理。

課題の一覧は「誰が決めれば終わるか」で仕分ける

課題の一覧が長くなると、会議は一覧の読み上げで終わりがちだと筆者は見ています。筆者が勧めるのは、一覧を3つに仕分けることです。

課題を3つに仕分けると、PMOが動かす相手が決まる

課題を判断待ち、作業待ち、社外の回答待ちの3つに仕分け、それぞれの中身の例、終わらせる人、発注側のPMOの動きを示した図。判断待ちは期限を過ぎたら、作業待ちは社内の手が足りなければ、経営の責任者とステアリングコミッティに上げる。経営への報告は、判断待ちを決める人と期限つきで先に並べる。

一覧の件数を減らすことより、判断待ちの行に名前と期限を入れることを先にする。

図4 課題を「誰が決めれば終わるか」で仕分ける。筆者の整理。

判断待ちを仕分けるときに使えるのが、決め方の取り決めです。IPAの「超上流から攻めるIT化の原理原則17ヶ条」は、原理原則の一つに「取り決めは合意と承認によって成り立つ」を挙げています。発注者にも受注者にも、合意の手順と承認のルールを明確にし、それに基づいて行動することを求めています。

判定の場を決めておいた例があります。旭化成は、SAP S/4HANAの導入で、追加のアドオンをプロジェクトのリーダーが毎週集まる場で議題に上げました。最終の判定は、会計、IT、経営企画室の部長が参加する毎月の審議会で行っています。SAPジャパンの紹介記事では、同社のPMOの一員が、開発の量を抑えなければ当初の予算と納期を守れないことは明らかだった、と振り返っています。

注意

決める人の欄に部門の名前だけを書くと、判断が止まりやすくなります。個人の名前と、決める期限を書いてください。

SAPのPMO支援を外に頼むときは、作る会社と分けるかを先に決める

社内にプロジェクト管理の経験者がいない場合、PMOの支援を外に頼むことになります。頼み方は2つあります。導入を請ける会社に、発注側のPMOの支援もあわせて頼む。または、導入を請ける会社とは別の会社に頼む。

先のガイドラインは、政府の調達について、プロジェクトの管理を支援する事業者を、管理の対象になる設計・開発の入札に参加させないと定めています。理由は相互けん制です。民間に適用されるルールではありませんが、作る会社を確かめる役を、作る会社自身に頼むことの難しさを示しています。

頼み方 利点 注意
導入を請ける会社に、発注側のPMOの支援も頼む 窓口が一本になる。SAPの中身を知る人が管理に入る 進み具合と品質を確かめる役と、作る役が同じ会社になる。発注側の責任者が、自分の目で確かめる場を持つ
別の会社に頼む 進み具合と品質を、発注側の立場で確かめられる SAPの設定の中身が分からない人だと、報告を取り次ぐだけになる。担当する人の経験を面談で確かめる

表2 PMO支援の頼み方。筆者の整理。

PMO支援を外に頼む前に、作る役と確かめる役を同じ会社に置くかを決める

Aは導入を請ける会社に作る役と確かめる役の両方を頼む形で、窓口は一本になるが、確かめる役と作る役が同じ会社になる。Bは確かめる役を別の会社に頼む形で、発注側の立場で確かめられるが、SAPの中身が分からない人だと報告の取り次ぎになる。どちらでも、判断と管理の責任は発注側に残る。
図5 PMO支援の2つの頼み方。調達のルールは出典1、利点と注意は筆者の整理。

筆者は、進み具合と品質を確かめる役は、導入を請ける会社と分けて置くほうがよいと考えています。どちらを選んでも、外に頼めるのは整理と準備までです。判断そのものと、導入を請ける会社を管理する責任は、発注側に残ります。依頼先の型と、担当する人の確かめ方は、SAPコンサル会社の選び方の記事にまとめました。

ポイント

PMOの支援を頼む前に、導入を請ける会社と分けるかどうかを決めます。頼んだあとも、決める役と管理の責任は社内に残ります。

PMOを置いても進まないときは、決める場と決める人を確かめる

PMOを置いたのに日程がずれていくなら、確かめる点は3つあります。

  • 経営の責任者が出る場(ステアリングコミッティ)が、決まった間隔で開かれているか
  • 課題の一覧に、決める人の名前と期限が入っているか
  • 仕様を固めたあとの変更を、受け付ける窓口と、可否を決める人が決まっているか

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査報告書2026」では、500人月以上のプロジェクトの47.8%で、工期が予定より遅れていました。SAPに限った数字ではありませんが、規模の大きいプロジェクトほど、管理の仕組みを先に決めておく意味は大きいと筆者は考えています。変更が止まらずに計画が崩れた事例は、SAP導入の失敗事例の記事で扱いました。工程ごとに発注側が決めることは、SAP導入の進め方の記事に整理しています。

Never Redは、会計領域の導入を担う立場で入る場合と、お客様側の選定の事務局・PMOとして導入ベンダーと向き合う場合があります。お客様側のPMOとして入る場合は、計画、課題、リスク、導入ベンダーの進み具合を管理し、判断が要る論点を役員に上げます。支援の範囲はSAP導入支援をご覧ください。

まとめ

  • 発注側のPMOは、止まっている判断を見える形にして、決める人に期限つきで渡す役割
  • 導入ベンダー側のPMOとは、管理する相手と守るものが違う。発注側にも管理の役を置く
  • 管理する項目は、政府の指針が挙げる9つの事項を土台にする。中心は課題管理と変更管理
  • 課題は、判断待ち、作業待ち、社外の回答待ちに仕分け、判断待ちに名前と期限を入れる
  • PMO支援を外に頼むときは、導入を請ける会社と分けるかどうかを先に決める

よくある質問

PMとPMOは、何が違いますか。
PM(プロジェクトマネージャー)は、プロジェクトの責任を負って決める人です。PMOは、PMと経営の責任者の判断を支えるために、計画、課題、リスクを整理する役割です。PMOを置いても、決める責任はPMと経営の責任者に残ります。
SAP導入のPMOは、何人くらい必要ですか。
人数は、対象の会社と領域の数、導入を請ける会社の数で変わるので、一律の目安は示せません。人数より先に、表1の9つの項目のうち、誰がどれを受け持つかを決めてください。
PMOの支援は、いつから頼めばよいですか。
筆者は、導入を請ける会社を選ぶ前から置くことを勧めます。RFPの作成、評価の基準づくり、質疑の管理は、PMOの仕事と重なるからです。途中から置く場合は、計画、課題の一覧、契約の範囲を最初に確かめます。
情報システム部門がPMOを兼ねてもよいですか。
兼ねられます。情報システム部門は、周辺システムとの連携や基盤を取りまとめる立場にあり、全体を見やすい部門です。その場合も、業務の型や追加開発の可否といった判断は、業務ごとの責任者と経営の責任者に渡します。

SAP導入のPMOの置き方や、進行中のプロジェクトの管理についてのご相談は、お問い合わせからお寄せください。

出典

  1. 発注者として主体性を持って事業者を管理する責任、プロジェクト管理要領の記載内容(ステークホルダー管理、コミュニケーション管理、工程管理、指標管理、リスク管理、課題管理、変更管理、品質管理、記録管理)、プロジェクト管理支援事業者の入札制限(相互けん制):デジタル庁「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」(2026年6月12日 デジタル社会推進会議幹事会決定)第3編第2章・第6章
  2. 体制の準備不足を失敗の要因とする指摘、現場部門の余力、ステアリングコミッティとPMOによる進め方:SAPジャパン「エキスパートコンサルが明かす SAP ERP 導入の失敗と成功の法則」(SAP NOWレポート、2024年10月7日)
  3. 未決事項の確定手続・時期の明確化、変更管理手続:独立行政法人情報処理推進機構「システム開発の健全化に向けて ~『情報システム・モデル取引・契約書』から読み解く~」(2025年4月24日講演資料)
  4. 原理原則[2]「取り決めは合意と承認によって成り立つ」と行動規範「合意プロセスと承認ルールを明確にし、それに基づいて行動する」:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「超上流から攻めるIT化の原理原則17ヶ条」
  5. 旭化成のアドオンの判定の場(毎週のリーダーの場と、毎月のアドオン審議会)、PMOの一員の発言:SAPジャパン「旭化成が SAP S/4HANA のビッグバン導入で目指す新たな成長基盤の再構築」(2023年11月22日)
  6. プロジェクト規模別の工期の遵守状況(図表7-1-4):一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2026」(2026年4月)

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