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SAPのAIエージェントとAutonomous Enterprise ─ 経理が先に決めておく3つのこと

SAP公開日 最終更新 約11分で読めます

SAPのAIエージェントとAutonomous Enterprise ─ 経理が先に決めておく3つのこと

この記事の要点

  1. 01SAPのAIエージェントは、Autonomous Enterpriseという構想の中で、Joule、SAP Autonomous Suite、SAP Business AI Platformの3層で業務を進める
  2. 022026年10月のSAP Connectで、実際の業務で動く様子を示した。ただし、エージェントの多くは提供予定で、使えるJoule Assistantsとその条件は契約と環境で変わる
  3. 03経理部門は、AIに任せる範囲、元になるデータの持ち主、締めの手順の3つを先に決めておく
目次6項目
  1. 01SAPのAutonomous Enterprise(自律型エンタープライズ)は、3層でできている
  2. 02発表は「提供済み」と「予定」を分けて読む
  3. 03経理・財務では、決算、債権、支払、資金の業務が挙がっている
  4. 04経理がAIエージェントを入れる前に決めておく3つのこと
  5. 05SAP ERP 6.0を使っている会社は、クラウドERPへの移行と一緒に考える
  6. 06よくある質問

SAPは2026年10月6日、米国ラスベガスで開いたSAP Connectで、Autonomous Enterprise(自律型エンタープライズ)が実際の業務で動く様子を示しました。5月のSAP Sapphire 2026で打ち出した構想で、日本では7月21日にSAPジャパンが発表しています。

一言で言えば、SAPのAIエージェントが部門をまたいで業務を進め、人は方向を決める、という企業の姿です。経理・財務は、SAPが挙げる5つの業務領域の筆頭です。

筆者は、この発表を受けて経理部門がいま考えるべきことは、どのAIを使うかより手前にあると見ています。AIに任せる範囲、元になるデータの持ち主、締めの手順の3つを決めていない会社では、エージェントを入れても動かせる業務が少ないと筆者は考えています。

この記事は、SAPの公式発表と製品ページをもとに、構想の中身、提供済みと予定の区別、経理・財務で挙がっている業務、経理部門が先に決めておくことを整理します。

SAPのAutonomous Enterprise(自律型エンタープライズ)は、3層でできている

SAPの製品ページは、Autonomous Enterpriseを3つの層で説明しています。

  • Joule:人がAIとともに意図を定め、アクションを起こす場所
  • SAP Autonomous Suite:業務のアプリケーション、データ、業務の知識が一体になり、基幹の業務をより自律的に進める場所
  • SAP Business AI Platform:信頼できる企業向けのAIを作り、統制し、広げる場所

いちばん上のJouleには、役割が違う3つのものがあります。利用者が使う画面のJoule Work、業務の文脈をまとめるJoule Assistants、複数の手順にまたがる業務を進めるJoule Agentsです。SAPの説明では、アシスタントが複数のエージェントをまとめて動かします。

真ん中のSAP Autonomous Suiteは、財務、支出管理(調達)、サプライチェーン、人事、カスタマーエクスペリエンスの5つの領域に分かれています。

いちばん下のSAP Business AI Platformは、SAP Business Technology Platform(SAP BTP)、SAP Business Data Cloud(SAP BDC)、AI Foundationを1つにまとめた基盤です。SAPジャパンの発表は、これを「開発」「コンテキスト・推論」「ガバナンス」の3つの領域に分けて説明しています。ガバナンスの領域には、エージェントを管理するSAP AI Agent Hubが入っています。

Autonomous Enterpriseは3つの層でできている。エージェントは業務の層に組み込まれ、下の基盤の上で動く

Joule、SAP Autonomous Suite、SAP Business AI Platformの3つの層を上から積んだ図。JouleにはJoule Work、Joule Assistants、Joule Agentsがある。Autonomous Suiteは財務、支出管理、サプライチェーン、人事、カスタマーエクスペリエンスの5領域。Business AI PlatformはSAP BTP、SAP BDC、AI Foundationを統合した基盤で、開発、コンテキスト・推論、ガバナンスの3領域に分かれる。
図1 Autonomous Enterpriseの3つの層(出典2・3・4をもとに作成)。各層の説明は出典4、Jouleの3つは出典2・3、SAP Business AI Platformの中身は出典2による。

ポイント

AIエージェントは、真ん中の業務の領域に組み込まれ、下のデータとガバナンスの基盤の上で動きます。筆者は、エージェントの出来は、下の層に入っている自社のデータと決まりの質に左右されると考えています。

発表は「提供済み」と「予定」を分けて読む

今回の発表には、すでに使えるものと、これから出るものが混ざっています。SAPの公式発表から、主なものを分けると次のとおりです。

対象 公式発表での書き方 出典
Joule Work 5月の時点では、早期導入プログラムの顧客向けに提供し、一般提供は2026年後半の予定(モバイルアプリは一般提供済み)。2026年10月に顧客への展開を始めた 出典1・3
SAP AI Agent Hub 5月の時点で一般提供済み。機能は2026年を通じて順次追加 出典3
200以上のエージェントと50以上のアシスタント 7月の発表の時点で、今後数カ月以内に提供される予定。5月の発表では、新しいアシスタントとエージェントは年末までに順次提供 出典2・3
RISE with SAPで使えるJoule Assistants 顧客が最大3つを選び、有効化をSAPの専門家が支援する 出典2
SAP Pay 新しい決済サービスとして発表。提供の時期は発表に書かれていない 出典1

構想の発表から5カ月で、業務で動く様子を示した。ただし、予定のものが多い

2026年5月のSAP Sapphire 2026での構想、7月のSAPジャパンの発表、10月のSAP Connectで業務での動きを示す、という流れ。提供済み・展開中はSAP AI Agent HubとJoule Work、提供予定は200以上のエージェントと50以上のアシスタント。使えるJoule Assistantsとその条件は、システム環境、契約、提供の時期で変わる。
図2 発表の流れと、提供済み・予定の区別(出典1・2・3をもとに作成)。

SAPジャパンの発表には、使えるJoule Assistantsとその条件は、顧客のシステム環境、契約、提供の時期で異なる、という注記があります。自社で何が使えるかは、契約と製品の案内で1つずつ確かめてください。

注意

「200以上のエージェント」は、今日すべて使えるという意味ではありません。社内で検討するときは、提供済みのものと予定のものを分けて書いてください。

経理・財務では、決算、債権、支払、資金の業務が挙がっている

SAPの発表と製品ページで、経理・財務に関わるものとして挙がっているのは次の業務です。

  • SAPジャパンの発表:Autonomous Financeが、決算、債権管理、支払処理、資金管理などの業務を支援する
  • SAPの製品ページ:AIが支援するワークフローで、決算の手続きを早め、手作業によるミスを減らす
  • SAP Connectの発表:経理の責任者(コントローラー)が、収益認識、開示、貿易のコンプライアンスを自動化できる
  • SAP Connectの発表:新しい決済サービスSAP Pay(SAPのグループ会社Tereinaが支える)が、SAPのクラウドERPの中で、支払の実行と照合を同じワークフローで行う

顧客の声としては、Nestléが、JouleとAccounts Receivable Assistantで、リスクと業務の文脈から債権の回収の優先順位を自動でつけられると述べていること、PwCが請求の問題を早く見つけるためにBilling Assistantを使っていることが紹介されています。

経理・財務で挙がっているのは、決まった手順で繰り返し回る業務

決算、債権管理、支払処理と照合、資金管理、収益認識と開示、請求の6つの業務を並べた図。筆者の見方では、どれも決まった手順で繰り返し回り、元のデータがシステムの中にそろっている業務である。
図3 SAPの発表と製品ページで、経理・財務に関わるものとして挙がっている業務(出典1・2・4をもとに作成)。共通点は筆者の見方。

筆者は、どれも決まった手順で繰り返し回り、元のデータがシステムの中にそろっている業務だと見ています。ここに、経理部門が備えるときの手がかりがあると考えています。決算を早めたい会社が最初に見るべきものは、SAPで決算早期化が進まない会社の共通点でも扱いました。

経理がAIエージェントを入れる前に決めておく3つのこと

SAPジャパンは、SAPとOxford Economicsの調査を引き、AIの活用を進めるうえでの課題として、データの品質、業務プロセス、人材、ガバナンスの整備を挙げています。筆者はこれを、経理部門の仕事に置き換えて3つに整理しています。

  • AIに任せる範囲と、人が承認する点
  • 元になるデータの持ち主
  • 締めの手順と、その例外

AIに任せる範囲と、人が承認する点を決める

SAP Connectの発表は、AIにどこまで任せるかを顧客が決める、と説明しています。任せる範囲は、SAPではなく自社が決めるものです。

経理の業務には、職務の分離や承認の決まりがあります。たとえば、エージェントが支払の候補を作る、照合の差異を見つける、仕訳の案を出す、というところまでは任せる。差異をどう処理するかの判断、支払の実行、仕訳の確定は人が承認する。業務ごとにこの線を引いておくと、内部統制の評価のときにも説明しやすくなります。

エージェントに任せるところと、人が承認するところの間に線を引く

支払の候補を作る、照合の差異を見つける、仕訳の案を出すまではエージェントに任せ、差異の処理の判断、支払の実行、仕訳の確定は人が承認する、という線引きの例。承認の線は業務ごとに自社で引く。
図4 AIに任せる範囲と、人が承認する点の線引きの例。AIにどこまで任せるかを顧客が決めることは出典1による。業務の例は筆者の整理。

元になるデータの持ち主を決める

エージェントは、取引先、勘定科目、品目といったマスタと、日々の取引のデータをもとに動きます。マスタに重複や古い登録が残っていれば、エージェントはそれをもとに判断します。

筆者は、マスタの項目ごとに、誰が登録し、誰が直すかを決めておくことを勧めています。持ち主が決まっていないデータは、誤りに気づいても直す人がいません。

締めの手順と、その例外を書いておく

エージェントに渡せるのは、手順として書ける業務です。月次の締めが担当者の頭の中にしかない会社では、何を任せればよいかが決められません。

締めの手順を順番に書き出し、例外として人が判断している場面も一緒に書いておきます。例外の多い手順は、エージェントに渡す前に標準の手順に寄せるかどうかを決めます。

経理が先に決めておく3つは、どれもAIを入れる前から手を付けられる

AIに任せる範囲と人が承認する点、元になるデータの持ち主、締めの手順とその例外の3つについて、書き出すものと書いておく理由を並べた表のような図。3つとも、AIを入れる前から手を付けられる。
図5 経理が先に決めておく3つと、書き出すもの。筆者の整理。

ポイント

3つとも、AIを入れる前から手を付けられます。決算早期化や内部統制の見直しとして進めておけば、エージェントを使うかどうかにかかわらず効果が残ります。

SAP ERP 6.0を使っている会社は、クラウドERPへの移行と一緒に考える

SAPジャパンの発表では、Joule Assistantsを使い始める入口として、RISE with SAPとSAP GROWが挙がっています。RISE with SAPは、オンプレミスのSAP ERPからクラウドへの移行とAIの活用を支援するもの、SAP GROWは、新たにSAPのクラウドERPを入れる会社向けのものです。SAP Payも、SAPのクラウドERPに組み込まれる形で説明されています。

いまSAP ERP 6.0を使っている会社にとって、Autonomous Enterpriseは、S/4HANAへの移行と切り離して考えにくい話です。移行の期限と方式は、SAP 2027年問題の記事とS/4HANAへの移行方式の記事で扱っています。移行の計画を立てるときに、経理のどの業務をAIに任せたいかを要件の1つとして書いておくと、標準に寄せる範囲を決めやすくなります。

Never Redは、SAPの会計領域を中心に、S/4HANAの導入と稼働後の定着を支援しています。締めの手順の書き出し、マスタの持ち主の整理、AIに任せる範囲と承認の線引きもご相談いただけます。支援の範囲はSAP導入支援をご覧ください。

まとめ

  • Autonomous Enterpriseは、Joule、SAP Autonomous Suite、SAP Business AI Platformの3層でできている
  • 2026年10月のSAP Connectで実際の業務で動く様子を示したが、エージェントの多くは提供予定で、使えるJoule Assistantsとその条件は契約と環境で変わる
  • 経理・財務では、決算、債権管理、支払処理、資金管理などが挙がっている
  • 経理部門は、AIに任せる範囲、データの持ち主、締めの手順を先に決めておく
  • SAP ERP 6.0の会社は、S/4HANAへの移行の計画と一緒に考える

よくある質問

SAPのAutonomous Enterpriseとは、何ですか。
AIエージェントが部門をまたいで業務を進め、人は方向を決める企業の姿を指す、SAPの構想です。Joule、SAP Autonomous Suite、SAP Business AI Platformの3層で説明されています。日本語では「自律型エンタープライズ」と訳されています。
Autonomous Enterpriseは、もう使えますか。
一部は使えます。SAP AI Agent Hubは2026年5月の時点で一般提供済みです。Joule Workは早期導入プログラムを経て、2026年10月に顧客への展開を始めました。200以上のエージェントと50以上のアシスタントは、7月の発表の時点で、今後数カ月以内に提供される予定とされていました。使えるJoule Assistantsとその条件は、契約とシステムの環境で変わります。
SAP ERP 6.0のままでも使えますか。
SAPジャパンの発表で入口として挙がっているのは、クラウドへの移行を支援するRISE with SAPと、クラウドERPを新たに入れるSAP GROWです。いまの環境で何が使えるかは、契約と製品の案内で確かめてください。
経理部門は、何から始めればよいですか。
AIに任せる範囲と人が承認する点、マスタの持ち主、締めの手順の3つを書き出すところから始めることを勧めます。どれもAIを入れる前から手を付けられ、決算早期化や内部統制の見直しにも役立ちます。

Autonomous Enterpriseを見据えた経理業務の整理や、S/4HANAへの移行の計画についてのご相談は、お問い合わせからお寄せください。

出典

  1. SAP Connectでの発表(2026年10月6日)。Joule Workの顧客への展開の開始、AIにどこまで任せるかを顧客が決めること、収益認識・開示・貿易のコンプライアンスの自動化、SAP Pay、NestléとPwCの事例:SAP News「SAP Puts the Autonomous Enterprise to Work」
  2. SAPジャパンの発表(2026年7月21日)。構想の位置づけ、Joule Work・Joule Assistants・Joule Agentsの役割、SAP Business AI Platformの構成と3つの領域、SAP Autonomous Suiteの5つの領域、Autonomous Financeが支援する業務、200以上のエージェントと50以上のアシスタントの提供予定、RISE with SAPとSAP GROW、提供条件の注記、SAPとOxford Economicsの調査が挙げる課題:SAPジャパン「AIエージェント時代に向けた企業変革ビジョン『Autonomous Enterprise(自律型エンタープライズ)』を発表」
  3. SAP Sapphire 2026での構想の打ち出し(2026年5月13日の特集記事)。人が方向を決めAIが実行するという定義、アシスタントが複数のエージェントをまとめて動かすこと、Joule Workの早期導入と一般提供の予定(モバイルアプリは一般提供済み)、新しいアシスタントとエージェントの年末までの順次提供、SAP AI Agent Hubの一般提供:SAP News「The Future of the Enterprise Is Autonomous」
  4. 3つの層の説明、Autonomous Financeの説明:SAP Japan「Autonomous Enterprise」

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