
この記事の要点
- 01SAPベンダーは、比べる前に、比べられる状態を社内で作ってから選ぶ
- 02RFPの前に7項目を決める。最も金額を動かすのは、アドオンの例外を決める人
- 03パートナーのレベルや資格者数は会社単位の情報。案件に入る人は面談で確かめる
目次7項目
SAPの導入や移行を検討して、何社かの導入ベンダーに提案を頼む。返ってくるのは、金額も期間も体制もそろわない提案です。高い会社はなぜ高いのか、安い会社は何を削っているのか。尋ねても、すっきりした答えは返ってきません。
原因はたいてい、ベンダーの説明の上手下手にはありません。発注する側が見積もりの前提を決めないまま頼んでいるからです。前提が決まっていなければ、各社は自分たちの経験で前提を置きます。置いた前提が違えば、金額も違ってきます。
SAPベンダー選びは、ベンダーに会う前にほぼ決着がついている、と筆者は考えています。なかでも見積もりを最も大きく動かすのは、標準の機能に合わない業務が出たときに、アドオンを止める人を決めてあるかどうかです。
SAPベンダーを比べられないのは、見積もりの前提がそろっていないから
SAPの導入費用は、大まかに言えば「どれだけの作業をするか」と「その作業を誰がいくらで担うか」の掛け算です。発注側が比べたいのは、誰がいくらで担うか、つまり単価や力量のほうです。ところが作業量のほうは、発注側が前提を決めない限り、各社がばらばらに見積もります。差はここで生まれます。
たとえば過去データの移行ひとつでも、残高だけを移すのか、過去数年分の明細まで移すのかで作業量は大きく変わります。SAPの標準機能にない処理を個別に作ること(アドオン)も同じで、現行並みに作る前提か、標準に合わせて減らす前提かで作業量が変わります。明細まで移してアドオンも現行並みに作る前提の見積もりと、残高だけ移してアドオンを絞る前提の見積もり。この2つの金額を並べても、分かるのは前提の違いだけです。力量の差は見えてきません。費用の内訳とどこで膨らみやすいかは、SAP導入の費用の記事で扱います。
見積もりの差の多くは、作業量の前提の差。単価の差は、その陰に隠れて見えにくい
見積もり金額を分解する
2社の金額を並べると
- 明細まで移す
- アドオンは現行並み
- 社内の時間を見込まない
- 残高だけ移す
- アドオンを絞る
- キーユーザーが時間を出す
前提を発注側が決めない限り、作業量は各社ばらばらに見積もられる。金額を並べても、比べているのは前提の違いになる。
筆者の見るところ、社内で決めていないことは、売る側の担当者と話すうちに決まっていきます。SAPがRISE with SAPという提供形態向けに示す導入の進め方を見ても、範囲を固める作業は導入が始まる前から進みます。最初の検討段階(Discoverフェーズ)で顧客の現行のIT構成や業務を分析し、対象範囲を固めるからです。その成果物は、提案段階の技術担当(プリセールス)や営業が顧客と一緒に作り、導入が始まるときに導入チームへ引き継ぐとされています。
ポイント
見積もりの金額差を生むのは、多くの場合、各社が置いた前提の差です。前提を決めずに提案を頼むと、範囲は売る側の担当者と話すうちに決まっていきます。
SAPの導入ベンダーを選定する前に、社内で決める7つのこと
前提をそろえるために、提案依頼書を出す前に社内で決めておくことを並べます。全部を細かく決め切る必要はありません。決まっていない項目は発注側で仮の前提を1つ置き、「仮置き」と明記して各社に同じ前提で見積もってもらえば、比べられる状態は作れます。
1. 何のために入れるのか。 月次決算を何営業日で締めたいのか。事業別や製品別の損益を、どの粒度で、いつ見たいのか。海外子会社の数字を、どの時点でそろえたいのか。「老朽化したから入れ替える」だけでは、ベンダーは現行を写す提案しか出せません。
2. 範囲。 対象にする会社(グループ会社をどこまで含めるか)、拠点、国、業務領域(会計、販売、購買、在庫、生産など)。一度に入れるのか、会計から先に入れるのかも範囲の一部です。
3. 移行の方式。 すでにSAP ERPを使っているなら、新しく入れ直す新規導入、今のシステムを変換するシステムコンバージョン、必要なデータを選んで移す選択データ移行のどれを取るか。方式が違えば、作業の中身がまるごと変わります。選び方はSAP移行の方式の記事で詳しく扱いました。決め切れないなら、方式の比較そのものを最初の依頼の範囲にします。
4. 標準に合わせる方針と、例外を決める人。 筆者の見るところ、金額を最も大きく動かすのはここです。SAPは、新規導入の設定では、自社が用意した導入手順(SAP Activate)と、業務ごとの標準設定のひな形(SAP Best Practices)に沿うよう強く勧めています。初回の導入もその後の更新も簡単になるからです。それでも、標準に合わない業務は必ず出てきます。そのとき業務を標準に寄せるか、アドオンを作るか。それを誰がどの基準で決めるのか。決裁する人と基準を先に決めておかないと、現場の要望がそのまま要件になり、見積もりは膨らみ続けます。止める人がいないからです。
5. データ移行の範囲。 残高だけか、明細までか。何年分か。取引先や品目のマスタを、どこまで整理してから移すのか。
6. 周辺システムとの連携。 つなぐ相手のシステム、連携の本数、データの向きと頻度。一覧にするだけで、見積もりの幅はかなり縮まります。
7. 社内の体制。 業務ごとの責任者(キーユーザー)を誰にし、どれだけの時間を出せるか。社内が出せない時間は、ベンダーの工数として見積もりに乗ってきます。
4の標準に合わせる方針は、会計の設計(勘定体系、管理会計の分析軸、会計基準や税務ごとに償却計算を分けて持つ仕組みなど)と深く絡みます。移行を前提にした会計の論点はSAP 2027年問題の記事にまとめています。
筆者の見立てでは、見積もりを最も大きく動かすのは4の「例外を決める人」
筆者の見立て
迷ったら、4の例外を決める人と基準だけはRFPより先に決める。ここが空いたままだと、どの会社の見積もりも現場の要望を積み上げた金額になる。
注意
「未定」とだけ書いて提案を頼むと、各社はそれぞれ別の前提を置きます。決まっていない項目も、発注側で仮の前提を1つ置き、全社に同じ前提で見積もってもらいます。
提案を比べるときは、金額より先に前提と除外事項を並べる
前提をそろえて頼んでも、各社の見積もりには独自の前提が残ります。そこで見積もりと一緒に、見積もりの前提、除外事項(見積もりに入っていないもの)、前提が変わったときの扱いの3点を、同じ書式で出してもらいます。金額を比べるのは、この3点を並べて、各社の差を言葉で説明できるようになってからです。
安く見える提案をよく読むと、除外事項に並んだ作業を社内で引き受ける前提になっているだけ、ということもあります。要件が固まる前に、作る段階の金額まで一括で確定させる契約にも注意が要ります。その後の変更が、すべて追加費用の交渉になるからです。依頼書に書く前提の細目と、届いた見積もりの読み比べ方、金額が確定する時点は、SAP導入の費用の記事で扱っています。
金額の行は最後に見る。先に横へ並べるのは、前提・除外事項・変更時の扱い
同じ書式で出してもらった3社の見積もり(記入は例示)
比べる順番
金額の差を言葉で説明できないうちは、比べているのは前提の違いになる。安さの理由が、除外事項に書いてあることもある。
パートナーの区分・レベル・資格は会社を映すが、案件に入る人は映さない
「SAPベンダー」「SAPパートナー」とひとまとめに呼ばれますが、中身は一様ではありません。SAP Japanの「SAPパートナーを探す」ページは、パートナーを販売、構築、コンサルティングおよび導入、マネージドサービス、イネーブルメントに分けて紹介しています。導入を頼む相手として主に検討するのは、コンサルティングと導入を担う会社(SAPのパートナープログラムでいうServiceパートナー)です。1社がいくつもの役割を兼ねていることも珍しくないので、その会社がこの案件で何を引き受けるのかを最初に確かめます。
比較記事では、プラチナやゴールドといったパートナーのレベルがよく選定基準に挙がります。SAPのパートナープログラム(SAP PartnerEdge)のレベルはBasic、Silver、Gold、Platinumの4段階です。SAPのサポートポータルの説明では、パートナーはポイントを積み上げて次のレベルを目指します。ポイントの項目には、契約済みで今後12か月に計上されるクラウド売上、直近12か月に導入を終えた案件の年間契約額、SAPが認定した専門領域(コンピテンシー)などが並びます。
つまりレベルは、その会社とSAPとの直近の取引と導入の規模を映す指標です。筆者は、体制の厚みを測る目安にはなると考えています。一方で、自社の案件にどんな人が入るのか、その人が自社の業種や会計の論点に明るいのかまでは教えてくれません。
入口の条件も見ておきます。Serviceパートナーに新しく申し込む会社は、最低でも、SAPに専任する認定クラウドソリューションコンサルタント3人とプロジェクトマネージャー1人をそろえる必要があります。申請する国の従業員は、10人以上が推奨です。契約から6か月以内に、少なくとも1つのサービスコンピテンシーを取ることも求められます。これは、いま新規に申し込む会社に求められる最低限の条件です(グローバル契約などを結んでいる場合は条件が異なることがあります)。案件ごとの品質は、別に確かめる必要があります。
SAP Japanは、パートナー別のSAP認定コンサルタントの資格取得数と資格者数も公開し、月次で更新しています。候補の会社がSAP認定コンサルタントをどれだけ抱えているかを知る手がかりになりますが、これも会社全体の数字です。
「SAPベンダー ランキング」と検索して見つかる会社の一覧も、同じ限界を持っています。候補を知る入口にはなっても、順位では選べません。どの一覧も誰かが決めた物差しで並べたもので、物差しが変われば順位も変わります。自社に合うベンダーとは、自社の前提に対して最も筋の通った提案を出す会社のことです。どの会社がそうなのかは、前提を示して提案を受けるまで分かりません。
選定でよく使われる手がかりを、分かることと分からないことに分けると次のようになります。
| 手がかり | 分かること | 分からないこと |
|---|---|---|
| パートナーの区分 | その会社が担う役割(販売、導入、運用など) | その案件で何を引き受けるか |
| パートナーのレベル | SAPとの直近の取引や導入の規模、取得したコンピテンシー | 自社の案件に入る人の経験 |
| 認定資格の数 | 会社全体の認定コンサルタントの厚み | 担当者本人が持つ資格と経験 |
| ランキング | 候補になる会社の名前 | 自社の前提に合うかどうか |
ポイント
区分、レベル、資格の数、ランキングは、どれも会社単位の情報です。自社の案件の出来を左右する「誰が入るか」は、提案の場で本人に会って確かめます。
提案の場で確かめるのは、会社ではなく人と進め方
区分もレベルも資格者数も、会社単位の情報です。だとすれば、提案の場で確かめるべきは、案件に入る人と、その人たちの進め方です。筆者は発注側に、次の4点を確かめるよう勧めています。
- 提案書に名前のある責任者と主要メンバーが実際に案件に入るか。面談で本人と話せるか
- その人たちが、同じ業務領域と同じ移行方式の案件を、どの立場で経験してきたか
- 標準に合わない業務が出たとき、アドオンを作る以外にどんな選択肢を示してきたか
- 会計の設計について、経理の責任者と直接議論できる人がいるか
とくに差が出るのは三つめです。アドオンを減らす提案は、ベンダーにとって自社の売上を減らす提案でもあります。それでも「その要件は標準のこの機能で代わりが利く」と言える相手かどうかで、稼働した後の費用が変わります。アドオンがその後の更新のたびにどう効いてくるかは、SAP移行の方式の記事で扱いました。
ベンダーを比べる前に、比べられる状態を作る
迷ったら、7項目のうち4、つまり例外を決める人と基準だけは、RFPより先に決めてください。ここが空いたまま提案を集めると、どの会社の見積もりも、現場の要望を積み上げた金額になります。
ベンダー選びで先に済ませるべきは、自社の決めごとです。そこが済んでいれば、どの会社に頼んだとしても、比べて選んだと言える状態になります。
Never Redは、SAP FI(財務会計)の導入・更改と経営管理の設計を、同じ人間が担うことにこだわっています。どこまでを標準に合わせ、どこに例外を認めるかは、システムの設定である前に会計と業務の判断だからです。私たちも導入を支援する側の会社ですが、RFPの前の論点整理や、アドオンを減らす方向での要件の見直しからのご相談も承っています。SAP導入支援の進め方はSAP導入支援、事業の全体は事業紹介をご覧ください。ベンダー選定の事務局を務めた事例は、SAP導入事例に載せています。ご相談はお問い合わせからどうぞ。
まとめ
- 見積もりが比べられない原因は、各社の力量より、各社が置いた前提の違いにある。
- RFPの前に、目的、範囲、移行の方式、標準に合わせる方針と例外の決裁者、データ移行の範囲、周辺システムとの連携、社内体制の7項目を決める。決まらない項目は仮の前提を置く。
- 見積もりは、前提、除外事項、前提が変わったときの扱いを並べてから金額を比べる。
- パートナーのレベルや資格者数は会社単位の情報。案件に入る人と、アドオン以外の選択肢を示せるかを面談で確かめる。
よくある質問
Q. SAPベンダーとSAPパートナーは同じ意味ですか。 ほぼ同じ意味で使われますが、SAPのパートナーには販売、構築、コンサルティングと導入、運用などの役割の違う会社が含まれます。導入を頼む相手は、主にコンサルティングと導入を担う会社です。提案を受ける会社がどの役割で関わるのかを、最初に確かめてください。
Q. プラチナやゴールドのパートナーを選べば安心ですか。 レベルはポイント制で、ポイントの項目にはSAPとの直近の取引や導入の規模、取得したコンピテンシーなどが含まれます。会社の規模は分かりますが、自社の案件に入る人の経験までは分かりません。レベルと合わせて、提案書に名前のあるメンバーと実際に話すことをお勧めします。
Q. RFPはどこまで細かく書けばよいですか。 目的、範囲、移行の方式、標準に合わせる方針と決裁者、データ移行の範囲、周辺システムとの連携、社内体制の7項目が埋まっていれば、見積もりは比べやすくなります。決まっていない項目は発注側で仮の前提を置き、各社に同じ前提で見積もってもらえば足ります。
Q. 要件の整理と構築を、別の会社に頼めますか。 頼めます。要件を詰める段階と作る段階を分けて発注すれば、作る段階の見積もりを、固まった要件で比べられます。その代わり段階の間で引き継ぎが生じるので、要件の文書をどの水準まで作ってもらうかを最初に決めておく必要があります。
出典
- パートナーの区分(販売、構築、コンサルティングおよび導入、マネージドサービス、イネーブルメント):SAP Japan「SAP パートナーを探す」
- Serviceパートナーの新規申請の最小要件(認定クラウドソリューションコンサルタント3人とプロジェクトマネージャー1人、従業員10人以上を推奨、契約後6か月以内に1つ以上のサービスコンピテンシー):SAP Japan「SAP ソリューションのサービス」(英語の原文:SAP「Servicing SAP solutions」。要件は申請国の現地法人に適用され、グローバル契約などでは異なる場合がある)
- SAP PartnerEdgeのレベル(Basic、Silver、Gold、Platinum)とポイントの項目:SAP Support「Level Tab」
- パートナー別の認定コンサルタント資格取得数・資格者数(月次更新):SAP Japan「パートナー別SAP認定コンサルタント資格取得数・資格者数」
- Discoverフェーズでの範囲の確定と、プリセールス・営業担当から導入チームへの成果物の引き継ぎ:SAP Learning「Defining the Standardized Framework」(RISE with SAP Methodology)
- 新規導入の設定でSAP ActivateとSAP Best Practicesに沿うことの推奨(初回の導入とその後の更新を簡単にする):SAP Help Portal「Getting Started With SAP S/4HANA 2025」(PDF)
CONSULTATION
SAP導入・S/4HANA移行のご相談
延長保守か移行か、移行ならどの方式か。会計の設計まで含めて、方針を決める段階からご一緒します。SAP FI(財務会計)の導入と経営管理の設計を、同じ担当者が受け持ちます。
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