
この記事の要点
- 01運用保守の見直しは、見積もりの比較より先に、社内で3つのことを確かめるところから始める
- 02ECCのEhP5以下は2026年1月からカスタマー固有保守。法改正への更新は原則として届かない
- 03委託先を替えても減らない費用がある。社内で決まっていない業務と会計のルールから生まれる
目次7項目
「運用保守の費用が重い」「委託先を替えたい」「第三者保守の提案が来た」。SAPの運用保守を見直そうとする会社は、たいてい見積もりの取り直しから始めます。その前に、社内で確かめておくことがあります。払っている費用が何の対価なのか。自社のSAPが、SAPの保守のどの段階にいるのか。そして、運用保守に寄せられる問い合わせのうち、社内の誰かが決めれば終わる話がどれだけあるのか。
筆者がいちばん重く見ているのは最後の点です。運用保守の費用には、委託先を替えても減らない部分があります。業務や会計のルールが社内で決まっていないせいで、同じ問い合わせと手直しが毎月繰り返される部分です。ここは契約をいくら見直しても消えません。
「SAPの保守」と「運用保守」は、払う相手も買っているものも違う
SAPの運用保守と一口に言っても、請求書は少なくとも3つに分かれています。ここでは主に、SAPを自社の環境(オンプレミス)で使っている場合を前提にします。クラウドの契約形態で使っている場合は、SAPが引き受ける運用の範囲を契約書で確かめ、残りを委託の範囲として考えてください。
1つめは、SAPに払う保守料です。オンプレミスでSAPを使う会社はSAPと保守契約を結び、修正プログラム、法改正への対応、SAPのサポート窓口といったサービスを受けています。SAPの公式ページは、オンプレミスの利用者がSAP Enterprise Supportを受けるには有効な保守契約が必要だとしています。料金の示し方も率が基本で、たとえば延長保守の上乗せは、SAPの資料で「maintenance basis(保守の基準額)」に対する2パーセントポイントと示されています。
2つめは、運用を任せている会社に払う委託費です。システムの監視、障害への対応、利用部門からの問い合わせ、月次の定型作業、小さな改修がここに入ります。ベンダーによっては、この委託をAMO(アプリケーション・マネジメント・アウトソーシング)と呼びます。基盤(BASIS)とアプリケーションで委託先を分けている会社もあります。
3つめが、追加開発やアドオン(自社向けに作り足したプログラム)の改修費です。
この3つは、見直しで動かせる範囲がまるで違います。SAPへの保守料は契約の種類と基準額で決まるので、下げるには契約の形そのものを変えることになります。SAP以外の会社に保守を任せる第三者保守は、この部分を置き換える選択肢です。委託費と改修費は、仕事の量と中身で決まります。「運用保守費を下げたい」と言うとき、どの請求書の話なのかを最初に分けておくと、社内の議論が噛み合います。
「運用保守費」は3枚の請求書。第三者保守が置き換えるのは1枚目だけ
「運用保守費を下げたい」と言う前に、どの請求書の話かを分ける。保守料の見積もりと委託費の見積もりは、同じ表で比べない。
ライセンスの保守料と運用保守の委託費は、予算の表で行を分ける
予算の表で、SAPのライセンスにかかる保守料と、運用保守の委託費が同じ行に入っていたら、別の行に分けてください。どちらが増えたのかを年ごとに追えます。
保守料の値上げは、中身を確かめてから見直す
筆者がSAPの公式情報で確かめられた値上げの要因は、2つあります。
一つは延長保守です。SAP ERP 6.0(EhP6〜8)で、2028〜2030年に延長保守を選ぶと、保守の基準額に対する率が2パーセントポイント上がります。もう一つは年ごとの改定です。SAP Enterprise Supportの料金は、契約当初の据え置きの期間が終わると、消費者物価指数(CPI)にもとづいて年ごとに上がることがあります。SAPの公式ページが、契約条件に従う改定としてそう説明しています。自社の契約でどう定めているかは、契約書で確かめてください。
どちらも、SAPとの契約で決まる費用の話です。委託費を見直しても、保守料の値上げそのものは変わりません。保守料は契約の形で、委託費は仕事の量と中身で、別々に見直します。
自社のSAPがどの保守の段階にいるかで、運用保守が引き受ける範囲が変わる
次に、SAP側の保守の段階を確かめます。保守には、法改正への対応や修正プログラムがそろう「メインストリーム保守」と、その後に続く段階があります。どの段階にいるかで、運用保守が自前で引き受ける範囲が変わります。SAP ERP 6.0(ECC 6.0)を使っている会社なら、最初に見るのはEnhancement Package(EhP、機能追加のパッケージ)のレベルです。確かめ方はSAPが示しています。システムの状態表示でSAP_APPLのリリース番号を見ると、3桁目がEhPのレベルです。616ならEhP6。
EhP5以下の環境は、すでにメインストリーム保守を終えています。SAPによれば、EhPを適用していないSAP ERP 6.0とEhP1〜5のメインストリーム保守は2025年12月31日に終わり、カスタマー固有保守の段階に入りました。EhP6〜8は2027年末までメインストリーム保守が続き、2028〜2030年は有償の延長保守を選べます。延長保守の条件と費用の読み方は、SAP 2027年問題の記事で詳しく扱っています。
カスタマー固有保守に入っても、SAPのサポートが消えるわけではありません。日本のSAPユーザー会(JSUG)の案内では、保守契約が続くかぎり問い合わせを登録でき、既知の修正情報も提供されます。問題は法改正です。この段階について、SAPの学習サイトは新しい法令や規制への更新は原則として提供されず、定期的な更新や機能追加も含まれないと説明しています。税制や帳簿保存のルールが変わったときの対応は、自社と運用保守の委託先が引き受けることになります。
注意
カスタマー固有保守について、「動いているから大丈夫」も「もう何も受けられない」も誤解です。確かめるべきなのは、法改正が来たときに誰が対応を作るのかが、運用保守の委託契約の範囲に書かれているかどうかです。
S/4HANAへ移った会社にも期限はあります。リリース(版)ごとに保守期限が決まっているからです。SAPは2022年9月、2023年版から新しいリリースを2年ごとに出し、各リリースのメインストリーム保守を7年に延ばすと発表しました。それより前のリリースは5年です。移行が終わっても、数年おきのバージョンアップを運用保守の計画に入れておく必要があります。運用の道具も同じで、SAPの公式ページによれば、SAP Solution Manager 7.2のメインストリーム保守は2027年末までです。SAPは2027年末までにSAP Cloud ALMへ移ることを全利用者に勧めているので、変更管理や監視をSolution Managerで回している会社では、運用保守の見直しと道具の移行が同じ時期に重なります。なお、ECCで延長保守を選んだ会社には、変更管理などSolution Managerの一部の機能について、2030年末まで追加費用なしで延長保守が提供されます。
EhP5以下のECCは、法改正の更新が原則として届かない段階にもう入っている
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Manager 7.2運用の道具 いま
ECCならSAP_APPLの3桁目でEhPを、S/4HANAならリリースを確かめる。その期限とSolution Managerの期限を、運用保守の計画に書き込む。
ポイント
- ECCなら、SAP_APPLのリリース番号の3桁目でEhPのレベルを確かめる。
- S/4HANAでも、リリースの保守期限とSolution Managerの期限を運用保守の計画に書き込む。
問い合わせの記録を「誰が決めれば終わる話か」で仕分ける
費用の区分と保守の段階を確かめたら、最後は中身です。材料は、委託先が毎月出している問い合わせと対応の記録です。件数や対応時間はたいてい報告書に載っています。ただ、件数を眺めても、減らせるかどうかは分かりません。見てほしいのは中身の種類です。
筆者は、記録を次の4つに分けて見ることを勧めています。
| 種類 | 典型的な中身 | 減らす手段 | 決める人 |
|---|---|---|---|
| システムの不具合 | プログラムや設定の誤り | 修正と再発防止 | 委託先・SAP |
| 操作の質問 | 使い方が分からない | 手順書と教育 | 情報システム部門・委託先 |
| マスタの誤り | 勘定科目、原価センタ、取引先の登録や割り当ての誤り | 登録ルールと責任者を決める | 経理・業務部門 |
| ルールの未決定 | どの科目で処理するか、どの部門に配賦するか、例外をどう扱うか | ルールを決めて文書にする | 経理部長・CFO・業務部門の責任者 |
委託先を替えて減るのは、主に不具合と操作の質問。マスタとルールの2つは、委託先を替えても減りにくいと筆者は考えています。月末になると同じ科目の振替依頼が来る。新しい部門ができるたびに配賦の設定を問い合わせてくる。こうした問い合わせはシステムの問題に見えて、実際には業務と会計のルールが社内で決まっていないことの表れです。委託先の担当者には決める権限がありません。だから委託先は、その都度、手作業の修正や小さな作り込みでしのぐことになります。それが毎月の工数になり、作り込んだ部分はバージョンアップのたびに検証の対象として残ります。
委託先を替えて減るのは、主に4種類のうち2つ。残る2つは、社内で決めない限り減りにくい
- 典型
- プログラムや設定の誤り
- 減らす手段
- 修正と再発防止
- 決める人
- 委託先・SAP
- 典型
- 使い方が分からない
- 減らす手段
- 手順書と教育
- 決める人
- 情報システム部門・委託先
- 典型
- 勘定科目、原価センタ、取引先の登録や割り当ての誤り
- 減らす手段
- 登録ルールと責任者を決める
- 決める人
- 経理・業務部門
- 典型
- どの科目で処理するか、どの部門に配賦するか、例外をどう扱うか
- 減らす手段
- ルールを決めて文書にする
- 決める人
- 経理部長・CFO・業務部門の責任者
委託先を替えても減らない費用は、社内で決まっていない業務と会計のルールから生まれる。分類に迷う問い合わせは4に入れる。
仕分けが済んだら、下の2種類について、件数に1件あたりの対応時間を掛けてみてください。社内で決めれば減る工数のおおよその大きさが出ます。窓口が情報システム部門であっても、この工数を減らせるのは会計と業務のルールを持つ側です。月末の振替や配賦のように締めの作業に関わるルールの整理は、決算早期化の実装支援でも扱っています。
ポイント
- 分類に迷う問い合わせは「ルールの未決定」に入れる。迷うこと自体が、ルールが決まっていない印になる。
- 工数の大きい順に、ルールを決める担当者を割り振る。
第三者保守を考えるなら、契約前に書面で確かめる
第三者保守は、SAPとの保守契約をやめ、SAP以外の保守専門会社に保守を任せる選択肢です。保守料を抑えながら今のシステムを使い続ける手段として検討されています。ただし、SAPとの保守契約からは外れます。SAPから届いていた修正プログラムや法改正への対応、SAPの窓口は、その会社が提供するものに置き換わります。
比べるときは、次の点を営業資料の説明でなく、契約書の文言で確かめてください。
- 日本の税制や帳簿保存など、法改正への対応をどの範囲まで、どの形で提供するか
- セキュリティの修正をどう提供するか
- 自社で作ったアドオンも対象に含むか
- 将来S/4HANAへ移るとき、SAPと改めて契約する条件はどうなるか
- 契約期間と途中解約の条件
注意
第三者保守が置き換えるのは、SAPとの保守契約の部分だけです。日々の運用や改修をどこに頼むかは、別に決める必要があります。保守料の見積もりと委託費の見積もりを、同じ表で比べないようにしてください。
第三者保守に切り替えても、マスタとルールの問い合わせは減りません。勘定体系や管理会計の作りも今のまま残ります。保守料を抑えても、その間にルールと会計の設計が決まらないなら、移行の判断を先へ延ばしただけになります。
運用保守を外注する範囲と、委託先を切り替える手順は、4分類から決める
外注に向くのは、不具合への対応と、操作の質問への対応
外注する範囲は、仕事の種類ごとに決められます。筆者は、4分類のうち不具合への対応と、操作の質問への対応は、外注に向くと考えています。マスタの登録ルールと会計処理のルールを決めることは、社内に残します。決める権限は、契約で委託先に渡せるものではないからです。
委託先を切り替える手順は、記録の仕分けから始める
委託先を切り替えるとき、筆者が勧める順番は次のとおりです。
- 問い合わせの記録を4分類し、社内で決める部分と委託先に求める部分を分ける
- 委託する範囲と、対応時間の約束(SLA)を書面にする
- 同じ範囲と同じ記録を各社に示して、提案を受ける
- いまの委託先から手順書、設定の記録、対応中の案件を引き継ぐ期間を置く
SAPとの保守契約そのものを第三者保守へ切り替える場合は、話が別です。第三者保守の節で挙げた5点を、契約の前に書面で確かめてください。
委託先を比べるのは、社内の宿題を分けてから
最初の一手は小さくて構いません。来月の報告書から、問い合わせごとに4分類の列を足してもらうことです。1〜2か月分がたまれば、社内で決めれば減る部分と、委託先に求める部分が分かれて見えてきます。委託先や契約の形を比べるのは、そのあとです。比べるときは、対応時間の約束(SLA)や体制に加えて、この表を見せ、どの種類をどう減らせるかを各社に聞いてください。答え方に差が出ます。
まとめ
- 運用保守の費用は、SAPへの保守料、委託費、改修費の3つに分けて見る。
- EhPレベルかS/4HANAのリリースで、保守の段階と期限を確かめる。EhP5以下は2026年1月からカスタマー固有保守。
- 問い合わせの記録を4分類し、マスタの誤りとルールの未決定は社内で決めて減らす。
- 委託先や契約の形を比べるのは、そのあとにする。
Never Redでは、運用保守の見直しを契約書より先に問い合わせの記録から始めます。SAP FI(財務会計)の導入・運用と経営管理の設計を同じ人間が担うことにこだわっているので、記録の仕分けから会計ルールの決め方の整理まで、一続きで進められます。支援の中身はSAP導入支援に、会計領域で当社が担う範囲はSAP会計(FI/CO)の導入支援にまとめています。導入済みのSAPの使い方を見直した事例はSAP導入事例で、会社としての事業は事業紹介でご覧いただけます。
よくある質問
Q. SAPの保守と運用保守は、何が違いますか。 保守は、SAPとの保守契約に基づいてSAPが提供する修正プログラム、法改正への対応、サポート窓口などです。運用保守は、社内や委託先が担う日々の運用で、監視、障害対応、問い合わせ対応、改修が含まれます。払う相手も、見直しで動かせる範囲も違います。
Q. EhP5以下のECCは、いまどういう状態ですか。 EhPなしとEhP1〜5のメインストリーム保守は2025年12月31日に終わり、カスタマー固有保守に入っています。保守契約が続くかぎり問い合わせの登録と既知の修正情報の提供は続きますが、新しい法令や規制への更新は原則として提供されません。
Q. 第三者保守に切り替えると、法改正への対応はどうなりますか。 SAPからは届かなくなります。対応は、第三者保守の会社が提供する範囲に限られます。範囲と方法は会社や契約によって違うので、契約前に書面で確かめてください。
Q. S/4HANAに移れば、運用保守は軽くなりますか。 期限の問題は残ります。S/4HANAはリリースごとに保守期限があり、2023年版からは2年ごとに新しいリリースが出ます。作り込みを減らせばバージョンアップの検証は軽くなりますが、社内でルールが決まっていないことから来る問い合わせは、移行しても消えません。
問い合わせ記録の仕分けから始めたい場合は、お問い合わせからご相談ください。
出典
- SAP Business Suite 7のメインストリーム保守は2027年末まで、延長保守は2028年初めから2030年末まで、延長保守の費用は「maintenance basis」に対する2パーセントポイントの上乗せ:SAP「Innovation Commitment for SAP S/4HANA until 2040 – Clarity and Choice on SAP Business Suite 7」
- EhPなし・EhP1〜5のメインストリーム保守は2025年12月31日に終了しカスタマー固有保守へ、EhP6〜8は2027年12月31日まで(延長保守は2030年12月31日まで)、SAP_APPLのリリース番号でEhPレベルを確認する方法:SAP Community(SAPによるブログ)「Maintenance Timelines for SAP ERP 6.0 ("ECC")」
- カスタマー固有保守の期間中も、保守契約があれば問い合わせの登録ができ既知の修正情報が提供される:JSUG「SAP ERP 6.0 メインテナンス時期について」(2024年7月25日)
- カスタマー固有保守では新しい法令・規制への更新が原則として提供されず、定期的な更新や機能追加も含まれない:SAP Learning「Discussing SAP Maintenance and Maintenance Strategy」
- S/4HANAは2023年版から2年ごとのリリース、各リリースのメインストリーム保守は7年(従来は5年):SAP News「New SAP S/4HANA Release and Maintenance Strategy」(2022年9月15日)
- SAP Solution Manager 7.2のメインストリーム保守は2027年末まで、SAPは2027年末までのSAP Cloud ALMへの移行を推奨、SAP Business Suite 7の延長保守を選んだ利用者には変更管理など一部機能の延長保守を追加費用なしで提供:SAP「SAP Solution Manager 7.2」
- オンプレミスの利用者がSAP Enterprise Supportを受けるには有効な保守契約が必要、契約当初の据え置きの期間が終わったあとは契約条件に従いCPIにもとづいて年ごとに料金を上げることがある:SAP「SAP Enterprise Support」
CONSULTATION
SAP導入・S/4HANA移行のご相談
延長保守か移行か、移行ならどの方式か。会計の設計まで含めて、方針を決める段階からご一緒します。SAP FI(財務会計)の導入と経営管理の設計を、同じ担当者が受け持ちます。
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